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東京地方裁判所 昭和63年(特わ)300号 判決

本籍

東京都品川区豊町一丁目一二三一番地

住居

同都世田谷区桜丘三丁目三二番二号

会社員

舟越則夫

昭和一六年一一月二〇日生

本籍

同都品川区豊町一丁目一二三一番地

住居

同都世田谷区桜丘三丁目三二番二号

会社役員

舟越茂子

昭和二〇年三月一九日生

右両名に対する各所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、伊藤恒幸出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人舟越則夫を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に、被告人舟越茂子を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人舟越則夫において右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれ右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人舟越則夫(以下「被告人則夫」という。)は、東京都渋谷区道玄坂所在の鳥市ビル一階において、「杉本商店」の名称でパチンコ景品交換業を営んでいたもの、被告人舟越茂子(以下「被告人茂子」という。)は、被告人則夫の妻で右事業の経理全般を掌理していたものであるが、被告人両名は共謀の上、被告人則夫の所得税を免れようと企て、仕入の水増計上をするなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五七年分の被告人則夫の実際総所得金額が七一〇九万三〇八三円あった(別紙1修正貸借対照表及び別紙3脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五八年二月二八日、東京都世田谷区若林四丁目二二番一四号所在の所轄世田谷税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が一六六一万六四七三円で、これに対する所得税額が四五七万八九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六三年押第五五六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、被告人則夫の同年分の正規の所得税額三八一〇万八八〇〇円と右申告税額との差額三三五二万九九〇〇円(別紙3脱税額計算書参照)を免れ、

第二  同五八年分の被告人則夫の実際総所得金額が一億一八九一万三六五四円あった(別紙2修正貸借対照表及び別紙4脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五九年二月二八日、前記世田谷税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が二〇三八万七七八九円で、これに対する所得税額が六〇九万四〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、被告人則夫の同年分の正規の所得税七二六〇万五〇〇円と右申告税額との差額六六五〇万六五〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  被告人則夫〔昭和六三年二月四日付、同月八日付、同月一三日付、同月一五日付、同月一七日付(二通)、同月一八日付及び同月一九日付(六枚綴りのもの)〕及び同茂子〔同月一一日付、同月一五日付(二通)、同月一六日付、同月一八日付、同月一九日付(二通)及び同月二〇日付(六枚綴りのもの)〕の検察官に対する各供述調書

一  広津留京子、古屋照太郎(二通)、栗山昭子(四通)、菊池圭子(二通)、梶間勝美(三通)、手島光春(二通)、高橋義則〔同月一七日付(二通)及び同月一八日付〕、小嶋三奈、大森圀昭、藤秀英、小沢紘治、松本寿美枝、北村俊夫、遠藤宝子、日暮恒夫、日暮静江(同月一五日付)、真々部大輔、磯崎信及び関谷耕藏の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の捜査報告書〔四通、甲1(検察官請求証拠番号、以下同じ)ないし3、17〕

一  国税査察官作成の査察官報告書(三通、甲14、15、23)

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  車両調査書(甲6)

2  貸付金調査書(甲7)

3  預け金調査書(甲11)

4  支払手形調査書(甲13)

5  未決済小切手調査書(甲16)

6  前受金調査書(甲18)

7  未払金調査書(甲19)

8  預り金調査書(甲20)

9  事業専従者控除調査書(甲21)

10  雑所得調査書(甲24)

11  申告所得調査書(甲25)

12  扶養控除調査書(甲29)

13  源泉徴収税額調査書(甲30)

14  出資金調査書(甲72)

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  建物調査書(甲4)

2  給与所得控除調査書(甲22)

一  押収してある所得税確定申告書(五七年分)一袋(昭和六三年押第五五六号の1)及び五七年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の2)

判示第二の事実につき

一  国税査察官作成の査察官報告書(甲5)

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  貴金属調査書(甲8)

2  土地調査書(甲9)

3  保証金調査書(甲10)

4  前払費用調査書(甲12)

一  押収してある所得税確定申告書(五八年分)一袋(昭和六三年押第五五六号の3)及び五八年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の4)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告人則夫

判示第一及び第二の各所為につき、いずれも刑法六〇条、所得税法二三八条一、二項

2  被告人茂子

判示第一及び第二の各所為につき、いずれも刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項

二  刑種の選択

1  被告人則夫

判示各罪につき、いずれも懲役刑と罰金刑の併科

2  被告人茂子

判示各罪につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

被告人両名につき、いずれも刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑にそれぞれ加重)、被告人則夫に対する罰金刑につき同法四八条二項

四  労役場留置

被告人則夫につき刑法一八条

五  懲役刑の執行猶予

被告人両名につき、いずれも刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、パチンコ景品交換業を経営していた被告人則夫と、被告人茂子とが共謀してその所得をことさらに過少に申告し、二年分の所得税合計一億三万六四〇〇円を脱税した事案であつて、そのほ脱額が高額であり、ほ脱率が昭和五七年分八七・九八パーセント、同五八年分九一・六〇パーセントと高率である点で結果は重大である。犯行の動機、態様についてみるに、被告人則夫は、高等学校を中退した後、上京して工員、コック見習い、屋台のおでん屋等の職を経て、同三九年ころから、渋谷区道玄坂において、パチンコ景品交換所を経営し、同五〇年ころ一旦やめたものの、一〇ヶ月余りで再開し、営業を継続してきたものであり、被告人茂子は、都内の高等学校を卒業後、同四二年、被告人則夫と結婚し、同五四年ころから、右景品交換業の経理面を担当してきたものであるところ、被告人らは、同五六年ころパチンコ店が新鋭機種フイーバー機を購入したことに伴い景品交換のためのパチンコ景品がライター石、香水などのいわゆるリンク商品(フイーバー機導入による景品交換の大量処理のため、それまでの食料品に替わる小型で長く保存がきくもの)となつて売上及び利益が大幅に増大したことから、暴力団組長に対する上納金の支払いのためやぜいたくな生活を送るため、あるいは景品交換業からの転業のために資金を蓄積しようと考え、仕入の水増計上をするなどの不正の方法により、申告額をはるかに上回る多額の所得があることを熟知しながら、申告書にその旨の収入金額を記載せず、甚だしく過少の所得金額のみを申告するという方法により本件を敢行したもので、その犯行の動機に特段斟酌すべき事情はなく、その犯行の手段・態様は大胆かつ悪質であり、秘匿所得の使途も、仮名預金への預入れ、不動産の購入のほか、高価な貴金属の購入、遊興費等にあてられていたものであり、しかも、被告人則夫においてはいまだほ脱にかかる本税、附帯税を納入していないことをも併せ考えると、被告人らの刑事責任は、いずれも重いといわなければならない。

しかしながら、被告人らは、本件発覚前の五九年分からは仕入の水増計上をやめていること、また、検察官の取調べの段階から、いずれも本件犯行を認め、本税、加算税及び延滞税につき、マンシヨン二室の売却等により納付する旨供述して反省の態度をあらわしていること、被告人らは本件により三ヶ月余の間身柄を勾留され、本件の重大性を認識していること、これまで、被告人則夫において業務上過失傷害罪で罰金二万円に処せられたほかに、被告人両名には前科や犯歴のないことなど、被告人らに有利な事情も認められ、被告人らの経歴、家庭の事情等をも総合勘案すると、被告人両名に対しては、直ちに実刑に処するよりは、今回に限りその懲役刑の執行を猶予し、社会内で更生させるのが相当であると判断し、主文掲記の各刑を量定した次第である。

(求刑 被告人則夫につき懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円、被告人茂子につき懲役一年二月)

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲田輝明 裁判官 中野久利 裁判官 中村俊夫)

別紙1

修正貸借対照表

舟越則夫

昭和57年12月31日 現在

〈省略〉

別紙2

修正貸借対照表

舟越則夫

昭和58年12月31日 現在

〈省略〉

別紙3

脱税額計算書

昭和57年分 舟越則夫

〈省略〉

別紙4

脱税額計算書

昭和58年分 舟越則夫

〈省略〉

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